01 セバスチャン・スラン「Googleの自動運転車で目指していること」

牛場 潤一 TEDxKeio Organizer

 

2012年、TEDxTokyoのキュレーションチームから登壇の打診があったとき、僕はとんでもなくワクワクした気持ちでOKの返事をしました。ちょうどその頃は、僕の研究室とリハビリ科がタッグを組んで研究していたブレイン・マシン・インターフェースという理工学技術を使って、医学の世界では治せないと思われていた脳の疾患を治療できそうだということが分かり始めたときでした。物置のような4畳半の狭い実験室を使って一人で始めた研究が、学生たちの自由な発想と行動力で大きく加速しはじめ、医師、療法士、そして当事者である患者さんの温かい協力と励ましによって、「理工学から医療を創る」という夢の形がおぼろげながら見えてきたところだったのです。僕らが希望を持って創りだそうとしているテクノロジーが、世の中にどんなインパクトを与えようとしているのか。学術論文を書いているだけでは伝わらない、一人称の情熱とビジョンを、憧れのTEDスタイルで話す機会をもらえて、本当に嬉しい瞬間でした。

 

しかしそれは同時に、ショックの連続でもありました。こんな話をしようと思っている、と原稿を作って事務局に送ってみると、「堅苦しくてつまらないです」や「大学の講義みたいで長過ぎます」というコメント。何度も1から作り直すハメになりました。ああ、こんなに産みの苦しみを味わうのは大学生のとき以来だなあ、とぼやきながら遠い目になる日々。。。

 

あるとき、キュレーションチームのひとりが、電話をかけてきます。「一般論や技術論はTEDに不要です。牛場さん、あなたのパッションはどこから来るのですか?なにがあなたを突き動かすのですか?みんなはそれが聞きたいんです。」そして、彼はこのTED Talkを紹介してくれたのです。電話を切って、さっそく研究室のPCで観てみると、そこには静かな語り口のなかから溢れるように伝わるセバスチャンの想いがありました。Googleで自動運転プロジェクトに携わるエンジニアだった彼のトークには、数式や図表は一切でてきません。いままで僕が受けてきた教育とは真反対のプレゼンテーション。だけど、だからこそ心に迫る情熱があり、人を動かす何かがありました。テクノロジーを語るためにテクノロジーを説明しないのは、いわば丸腰で自分をさらけ出しながら相手と向き合うことと同じです。でも、だからこそ一人の人間としての価値が問われているようにも思えました。

 

 

“There is a vision here, and a new technology.”
— ここにビジョンがあり、新しいテクノロジーがあるのです。

 

 

セバスチャンのトークの最後に出てくるこのフレーズは何気なく聞こえるかもしれませんが、理工学研究に携わる自分の情熱とシンクロする、知的な熱量を持った言葉です。翌日、改めて送った原稿は、一発OK。自分のなかで、「伝える」ことのチャンネルが増えた気がした瞬間でした。

 

ところで、この話には後日談があります。TEDxTokyo 2012の当日、「先日はお電話失礼しました」と言って挨拶をしてくれたその彼は、某大学の学生さんだったのです。「大学生という立場なのに、大学の先生に偉そうなことを言ってすみませんでした」と彼はしきりに恐縮していましたが、でも僕はそこに半学半教の形を感じて嬉しくなりました。こんな素敵な形で、演説のありかたをじっくり考え、立場を超えてみんなで学び合えるのなら、慶應義塾にその文化を芽吹かせたい。そんな想いでいろいろなところで声をかけていくうち、考えに共鳴してくれた塾員塾生のみんなが大勢集まってくれるようになり、そしていま、TEDxKeioの実現に向けて動きはじめるに至ったのです。

牛場 潤一 Junichi Ushiba

TEDxKeio Organizer

理工学部生命情報学科准教授。専門はリハビリテーション神経科学。ヒトの感覚運動システムにおける神経機能の理解と制御を主眼として、工学技術と活かした神経生理学研究をおこなう。理工学から次代の医療を創ること、そして同時に、文理渾然たる新しいサイエンスを創ることを目指している。